<補足>添付CDの功罪について
先日の文章に対して、コメントが色々とついています。ここでそれらをまとめると同時に、私個人の考えを補足したいと思います。
まず添付CDというのは「資料」であって、「音楽的価値」を求めるものではないという見解でコメントはほぼ一致しています。(ということで、以下、「添付CD」のことは「資料録音」と記します。) 実際に録音のお仕事も多いとみかわ氏のコメントを引用します。 原則として、録音と実演はまったく別感覚で演奏するのが、プロの仕事。 お手本演奏は、全ての音をクリアーに・・・が目標。実演(コンサート)などで使うピアニッシモやルバートは原則としてご法度の世界。 つまり、楽譜にある「ドレミ」をギターで弾いたらこうなるぞ、という資料ですね。例えてみます。 有名な「禁じられた遊び」。実際に演奏する場合には、1弦で奏でる「シ・・シ・・シ・・シ・・ラ・・ソ・・」というメロディ部分をはっきりと、それ以外の中間音「・シソ・シソ」(2弦・3弦の解放弦の音)は、場合によってはごく弱く奏でられます。資料用の演奏では、しかし、この「・シソ・シソ」がはっきり聞こえなくてはいけません。ある程度メロディを優先しながらも、「シシソシシソ」と聞こえる録音になるでしょう。こうして全ての音がはっきりと録音されることによって、学習者は、楽譜にある全ての音がどんな高さの音であるかを知ることができます。(*この例えは、実際の資料録音を聞いて書いたものではなく、あくまでも誇張して分かりやすく例えたものです。) 次に、一連のコメントをまとめてくださったギター初心者さんのコメント。 添付CDと、生演奏や普通のCDとは制作目的が違うんですね。 前者は自分がまともに弾けているかを知るためのツールとして有効で 特に練習曲で技術的な完成を目指す時に役立つということですね。 制作目的が異なるという点については、まさにそのとおりだと思います。続く部分について、私個人の考えを以下に補足します。 「まともに弾けているか」=楽譜どおりの正しい音(音質ではなく、音価やドレミについて)で弾いているか、だと考えます。楽譜を読むのが苦手な人、または楽譜に書いてある「ドレミ」と実音とがリンクしない人は、間違った音を弾いていることに気付かない場合が往々にしてあります。臨時記号の見落としなども多いです。確かに、資料録音はこれをチェックできる便利なツールです。 こうした「チェック機能」はもちろん、大切なのは、「ああ、この楽譜に書いてある音楽はこういう曲なんだ!」という概要を知ること、そして、楽譜を見ながら聞くことで、「楽譜に書かれたこのシの音は、ギターで弾くと1弦の7フレットで出せる音なんだな」という、楽譜とギターの実音をリンクさせることだと思います。 ここで考えたいのは、資料録音が、特に練習曲や技術的な問題に偏ったことではなく、どんな曲に対しても「読譜の助けになる」という普遍的な価値をもつということです。逆に言えば、特に練習曲において目標とされる技術の獲得や理想とされるテンポは、資料録音から得られるものではなく、個人の習熟度に左右されるべきものだと私は考えます。同じ練習曲を、何度も繰り返し学習するのはそのためです。例えば、アルペジオを多用する練習曲があるとして、「アルペジオという奏法を初めて勉強する」生徒と、「素早くなめらかなアルペジオ奏法を実現する」ことを目標にする生徒が、同じ曲に対して存在しても不思議はないのです。この場合、どちらも資料演奏と比べて「まともに演奏できているか」を判断することは出来ません。 さらに、練習曲というと「技術的な問題」がクローズアップされますが、私は必ずしもそうとは思いません。練習曲から音楽表現を学ぶこともできますし、逆に、練習曲以外の曲から学ぶ技術も多くあります。以上のように考えると、資料録音が特に練習曲において役に立つということではないように思うのです。 長々しく書いたわりには、かなり分かりにくい内容になってしまった気がします。とにかく、資料録音は「楽譜にある音は、耳で聞くとこの音だ」ということを示すものであり、それが価値のほとんどすべてではないかと、私は考えています。そして、その意義を理解して使えば、「功」のみが大きく「罪」はなくなるでしょう。
by yuko_kodama
| 2007-05-01 15:02
| ギター音楽の話
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クラシックギタリストです。
現在、読売カルチャー横浜校講師。 ギターアンサンブル「カンパニージャ」「オリエンタル」メンバー。 子ども向けウクレレ&ギターユニット「フェザーテイル」メンバー。 プロフィール 5才からピアノを習い、18才でクラシックギターに出会う。以後現在に至るまでギターを手塚健旨氏に師事。2001年~2003年スペインへ留学、マリア・エステル・グスマン氏に師事。 最新の記事
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