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マリア・エステル・グスマン ギターリサイタル

d0030554_16522662.jpg来日中のスペイン人ギタリスト、マリア・エステル・グスマンのリサイタルを、10月6日(土)横浜、10月10日(水)東京にて聴きました。

彼女は世界的なギタリストですが、最も来日回数の多いギタリストの一人でもあります。また私の留学中の師であることは、何度も紹介しているとおりです。彼女のリサイタルへ足を運ぶたびに、その素晴らしい音楽に感動するとともに、レッスンで教わった様々なことを目の前に突きつけられて、「ああ、まだまだ頑張らなくては」と思わされます。

横浜公演は、近年に珍しく、スペイン物が並んだプログラムでした。冒頭の、ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」は彼女自身による編曲。万が一出版されたとして、一体誰が弾けるんだ?という感じの超絶技巧曲でしたが、彼女の演奏にはその難しさを微塵も感じさせない流麗さがあります。そして、ギターならではの音色の変化や音の重なりを連ねることで、ピアノ曲の色彩感を損なうことなく、美しい1枚の水彩画を描いてしまう、リサイタル冒頭から一気に彼女の世界に引き込まれます。続くファリャの「ドビュッシー讃歌」。1曲目の色彩感はそのままに、ファリャ独特の「おどろおどろしい」雰囲気をかもし出した演奏は、プログラミングの妙によって、単独で演奏される以上の効果を生み出していました。
印象派の2曲の後に続いたのは、スペイン音楽の双璧、グラナドスとアルベニス。いずれもグスマン独自の編曲です。グラナドスの「サンブラ」と「サパテアード」は、どちらもアンダルシアに残る東洋的な印象を色濃くうつした作品。シャープで鋭いタッチは、舞曲のリズムを狂いなく刻んで、小気味よく粋な演奏です。アルベニスの「タンゴ」「カディス」「レイエンダ(伝説)」の3曲は、そのオーケストラ的な音の広がりと重なりが本当に素晴らしい。ゆったりとしたテンポで進む「タンゴ」はあくまで優美に、「カディス」はともすれば退屈になりがちなのんびりリゾート気分の曲を、メロディや低音部だけでなく中間の声部も時には際立たせる立体的な演奏で緊張感を持たせ、「レイエンダ」は持ち前の鮮やかなテクニックと女性とは思えない力強いタッチで一気に聴かせました。グスマンのリサイタルでこれほどスペインものをまとめて聴いたのは、おそらく初めてではないかと思いますが、聴きなれたはずの名曲の数々がこうも新鮮に耳に響くものかと驚きます。まさに行間を読むような読譜力や音楽の解釈・構成力、そしてそれを表現できるテクニックという車の両輪が、しっかりと噛み合っている心地よさを感じます。

この日の後半は、ピアニスト高木洋子とのデュオ。すでに組んでから年月の長い彼女たちは、まるで姉妹のように息がぴったり合っています。同じくアルベニスの「グラナダ」「コルドバ」「セビーリャ」の3曲と、続いて演奏された「アランブラの想い出」は、どちらも井上勝仁氏の編曲によるピアノ&ギター版。単にギターソロ版に和声付けをするにとどまらず、魅力的なオリジナルフレーズが散りばめられた名編曲です。アルベニスの3曲はいずれもアンダルシアを代表する歴史ある街の風景を描いたもので、特にセビーリャはグスマンが現在も住んでいる故郷です。全く雰囲気の違う3つの街を音楽で描いたアルベニスも天才ですが、それを余すところなく表現できるギタリスト・ピアニストもまたすごい。高木のピアノは、回を重ねるごとにまろやかさが増して、特に「グラナダ」の冒頭の、こんこんと泉の湧くような美しいアルペジオは印象に残ります。「アルハンブラの想い出」では、ただキレイに粒のそろったトレモロというのではなく、ピアノに負けないほどの大きな起伏を伴う表情豊かなトレモロが聴かれました。これほど自由自在に音量も速度もコントロールされたトレモロは「世界一のトレモロ」と言ってもいいのではないでしょうか。
プログラムの最後を締めくくる「アランフェス協奏曲」では、有名な2楽章のみが演奏されました。来日のたびに演奏される人気のプログラムで、回を重ねるごとに感動が増してゆくように思われます。今回は、しっとりと美しい第1主題と、対照的に激しく情熱的なカデンツァの対比が見事でした。美しい音色と、音楽にぴったりと合った絶妙のビブラートで泣かせるかと思えば、一分の隙もない完璧なテクニックを見せつけて、耳だけでなく視線までギターに釘付けにしてしまうカデンツァ!そして、ピアノに主題が戻ったときの感動的な広がりと、緊張感が最後まで途切れないピアニッシモのフィナーレ。2楽章だけとはいえ、完成された世界が出来上がっていました。

会場の杉田劇場はまだ新しく、とても居心地のよいホールで、ギター演奏にはぴったりの大きさも良かったです。彼女のように硬質ですっきりとした美しい音色を持ち、スピード感と立体感のある完璧な演奏を聴く場合には、後方の席では少し残響がありすぎるようでした。私のようにいい加減に弾いていると、その響きが演奏を助けてくれるのですが・・・(笑)。次回はぜひ、早めに出かけて前方の席に座ろうと思いました。

長くなってしまったので、東京公演の感想はまた次回。
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by yuko_kodama | 2007-10-25 16:53 | ライブ、コンサートの話