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シューベルトの未完成

先だって「禁じられた遊び」のDVDを貸してくれた映画が大好きなNさん。この前のレッスンでは、「未完成交響楽」という映画の話題が出ました。この映画、私は見たことがありませんが、書物の中ではたびたび遭遇する名画で、あらすじは知っています。青年シューベルトの身分違いの恋を、「未完成」の作曲とからめてロマンチックに描いた映画。指揮者の岩城宏之氏は、自著「楽譜の風景」(岩波新書)の中で、音楽家を志したきっかけのひとつとして、この映画と、「オーケストラの少女」という映画をあげています。

映画に感動した人には申し訳ないけれど、このストーリーが全くのフィクションであることは知っておいてもいいかもしれません。だからといって映画の価値が変わるものではありませんから。

この曲がシューベルト25歳のときにウィーンで着手されたことは、自筆譜によって明白に記録されていますが、いつ中断されたかは全く不明です。先日、FMでこの曲が放送されたときの吉松隆氏の解説によれば、「この曲の出来を相談するため、シューベルトは完成した1,2楽章を知人に預け、その人が預かったまま忘れてしまったため、シューベルトの存命中に続きを書くことがなかった」という説もあるそうです。(NHK-FM「FMシンフォニーアワー」 4/16放送)
一般的には、この2楽章の交響曲はそれだけで非常に強い完結性を備えていて、続きを書くに書けなかったというのが定説です。参考にした解説書を以下に引用しましょう。

この交響曲は第1、第2両楽章だけ完全なスコアになっている。第三楽章スケルツォは、わずか9小節だけがオーケストレートされ、あとの一部分がピアノ曲の形の書きおろしのままになっている。第4楽章のためには下書すらもない。この曲が未完成に終った理由はいろいろあろうが、要するにこの二つの楽章が形式的にも感情的にも互いにしっかりと手を結びあい、それだけで十分に完成したまとまりをもつことになったので、これにどのようなスケルツォやフィナーレをつけても、かえって無用の長物になるということを、天才の直観によって知ったからではないかと思う。この曲は形式上未完成ではあるが、内容的には完成しているといってよいのではなかろうか。 (「最新 名曲解説全集1~交響曲Ⅰ」(音楽之友社)--シューベルトp.336、辻荘一)

ちなみに、前出のFM放送時には「交響曲第7番 “未完成”」となっていて、「あれ?」と思ったところ、最近では研究と整理が進み、シューベルトの交響曲は全部で8曲とされ、これまで第8番として知られた「未完成」は第7番、第9番としてこれまた有名な「グレート」が第8番となっているとのこと。さて何番が落ちたのかというのは、不勉強につき分かりません。
でも、私くらいの世代でもやっぱり「未完成」といえば、イコール「第8番」。この手のことは、馴染むまで時間がかかりますね。

と、色々うんちくを書いてきましたが、映画は見たい。Nさんが貸してくれるという次回のレッスンが待ち遠しい日々です。そして、待ちきれずに日々「未完成」のCDをかけている私。いやー、美しい曲です!
by yuko_kodama | 2006-04-20 10:28 | クラシック音楽の話
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