手塚健旨ギターリサイタル

3月4日、三軒茶屋のサロン・テッセラにて行われた手塚健旨先生のリサイタルを聴いてきました。現代ギター誌にて連載されていた「ギター名曲ミステリー」が単行本として出版されたことを記念しての演奏会です。共演は、連載を写真撮影ほか助手(?)として支えたピアニストの高木洋子さん、若き日のスペイン留学時代を共に過ごした柴田杏里さん。とても聴きごたえのあるリサイタルでした。

最初にお断りしておくと、私はもう20年以上も手塚先生に師事しており、先生を尊敬していますので、悪い言葉を使えば先生に「洗脳」されています。先生が良いと言うことを良いと信じて勉強してきた20年ですから、そうした価値観での感想になります。ついでに言えば、このブログで書かれるコンサートレポートのすべては、こうした私の価値観で書かれる私的な感想ですから、全く客観的ではありません。

話をリサイタルの感想にもどします。
まず感じたのは、現在のクラシックギターの主流はもはやスペインを離れてしまったのかもしれない、という何となく寂しい気持ちと、少数派であっても古き良きスペイン気質を受け継ぐ師についていることの幸せです。

クラシックギターは現在では日本はもちろん世界中で愛好され、ピアノやバイオリンと同じようにクラシック音楽の一端を担う楽器としての地位を得ています。しかし、ギターとギター音楽がスペインで発展してきたことは事実であり、そこにはただ「クラシック音楽」のためだけの楽器ではない、民族音楽と切っても切り離せない関係がありました。そうした「スペイン臭さ」というのが現在、良くも悪くも失われつつあるのではないかと感じました。というのも、手塚先生と柴田杏里さんのギターにはその「スペイン臭さ」が充満していて、心底ワクワクしてしまったからです。

お二人の針の穴を通すような、鋭く澄んだ硬質の音色。爪と弦の摩擦の音までが音楽的なラスゲアード。この日のプログラムはこうした音色やスペインらしさを満喫できるものでした。気心知れた仲ならではの二重奏も良かったです。息がぴったりというのとはまた違うのですが、お互い全然違うことをやっているように見えて、実はどこか深いところが繋がっているという感じなのです。ソロを弾かれた時にはそれぞれ「大先生」に見えたお二人が、並んで二重奏をするとイタズラを企む少年のように見えてしまうのも面白かったです。

ピアノの高木洋子さんも素晴らしかったです。ギターとのアンサンブルではお二人の硬質なギターの音色を生かす柔らかな響きが印象的ですが、ソロではピアノらしい華やかな演奏で、その違いというか「弾き分け」に驚きながらも感動して聴きました。間近にレコーディングを控えたガジャルド・デル・レイ作曲のギター作品「ロルカ組曲」からの2曲も素敵な曲でCDになる日が待ち遠しいです。

ギターとピアノは、その編曲作品の多さ(主にピアノからギターへ、ですが、高木さんはギター作品をピアノに編曲するスペシャリストです)を考えても互換性のある楽器ですが、編曲においてはそれぞれの得意とするところ、響きや音色の違い、これらを知り尽くしてお互いの楽器らしさを生かすというところが面白いですね。高木さんの「ギターの曲をピアノで演奏する」活動は、始まりはご本人の「好き」という気持ちからであったとしても、全力で応援したい意義ある活動ではないかと思います。ひとつの作品をギターとピアノの両方で聴くと、ピアノではギターで表現しきれない音の広がりや重なり、ギターでは難しい運動性(軽やかで速いスケールなど)の実現などから曲のイメージがさらに膨らみますし、逆にギターでは必要最小限に削られた音数による表現の奥行き(言ってみれば枯山水の庭園のようですね)や様々に変化する音色の美しさに感動します。

今回も長々と書きましたが、たった1時間半のリサイタルでこれだけのことを考えさせられたのですから、内容はとても充実していたと思います。同じメンバーで11月にもコンサートが予定されているそうなので、こちらも楽しみにしたいと思います。



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by yuko_kodama | 2017-03-05 08:17
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